333DISCS PRESS
●西荻の街角から〜トウキョウエコノミー
「拝啓 C・F・W・ニコルさまへ」
文責:三品輝起
■本コーナーでは、わざわざ普段の仕事で書いてるようなカッチカチな話もアレだし、といって震災と関係ないユルユルなことを書く気にもなれない。また震災情報という点からいえば、おそらくインターネットで情報収集にいそしむ方々や、お茶の間ワイドショーにがっぷり四つの方々(ぼくの親とか)のほうがよっぽど詳しい。
てなわけで、震災の復興に向けた経済学者らによる議論の中で(注1)、比較的わかりやすくて、かつ、まだあまり知られていない、「キャッシュ・フォー・ワーク(Cash for Work=以下CFW)」という提案をさくっと紹介してみたい(注2)。
■まずCFWは「労働対価による支援」と訳されたりする。つまり「被災者みずから」に復興事業に従事してもらい、賃金を支払うことで一時的な雇用にもなる、という考えだ。途上国の復興援助ではかなり一般化してるので、平時からそっち系に興味があった人は知ってるかも。
以下、具体的なCFW案を、震災初期から提唱をしてきた永松伸吾さん(関西大学社会安全学部・准教授)の議論を参考に、簡単に説明していく。
目的は2つあって、「被災者に一時的な雇用機会を確保し、最低限の収入を維持しながら、地域経済の自立的な復興を支援すること」。あと「被災者自身が自らの地域の復興に直接関わることによって、被災者に尊厳と将来への希望を取り戻し、地域の絆を高めること」(注3)。
んじゃ、どんな仕事をやるの? 具体的には、自宅周辺のがれきの片付け、建造物の復旧、遺留品の回収と返品。被災者台帳の作成、コールセンター、仮設住宅の見回り、給食配送なんかがある。変わったものだと、震災の学術調査の補佐や、支援系のNGOに対する食事や宿泊の提供、といったものまで考案されてる。ただ1点だけ、重要な但し書きがあって、それは「雇用のために無理矢理創出された仕事であってはならない」ってこと。
じゃあ、いくらくれるの? CFWの賃金にも重要なポイントが1つある。賃金が「既存の産業と労働市場において競合することがあってはならない」というものだ。CFWが、市場の復興経済に悪影響を与えることだけは避けなくちゃならない。よって永松さんは賃金水準を、同一労働の3割ぐらい低めに設定するのが好ましい、としている。そうすることで、勤め先がどうしても見つからない人にだけ雇用を提供できる。
■とりあえず、ほんのさわりの部分だけ書いてみた、んで読み返してみたが、うーんこれ興味ないかもなー。合コンなんかで語ってたらヤバいもんなー、というか誘われたことないけど。まあいい、そろそろ終わります。
CFWを机上から現実に移していくには、法的整備を含め国レベルでの政策でなくちゃならない。その下にCFWセンターのようなものを作って、労働受給を効率的にマッチングするのも、容易なことじゃない。むろん、これはたくさんある復興案の、小さなアイディアの1つに過ぎないわけだけど、ぼくはひろーい可能性を感じてて、勉強会やら提言のフォローにいそしんでる。余震に揺れる東京23区の端っこで。
■さーて……所変わって、深夜のお店。パソコンの光に照らされ、ひとり物思いに耽っている。「人間だもの CWニコル」と検索バーに入れたりしながら、一介のお店にできることはあまりに小さいなーってしみじみ思う。けどまあ、自分の頭で考えて、黙って行動していくつもりよ。んでは。ナっ、シュレダノウー!
三品輝起(みしなてるおき)
79年生まれ、愛媛県出身。05年より西荻窪にて器と雑貨の店「FALL (フォール)」を経営。また経済誌、その他でライター業もしている。音楽活動では『PENGUIN CAFE ORCHESTRA -tribute-』(commmons × 333DISCS) などに参加。