333DISCS PRESS
●西荻の街角から〜トウキョウエコノミー
世界に一つだけじゃないサウダーヂ
文責:三品輝起
年始なので心をいれかえてまじめに(なのでBGMは「世界に一つだけの花」でお願いします)。
(……もーともーととーくべーつなオンリーワン……)
去年もっとも印象に残った映画の1つに、富田克也監督の『サウダーヂ』というのがある。舞台は日本中にある空洞化した不景気な地方都市……ショッピングモール、パチンコ店、駅前商店街のシャッター通り、ゴーストタウン化した歓楽街。まあ旅行するたびに出会う、判で押したようなの風景だ。
そして、その街に生き、ばらばらにほどけてしまった者たち……失業者、悪徳業者、介護老人、過酷な肉体労働者、ヒップホップを歌う若者、ラブアンドピースな若者、東京帰りの若者、冷笑する若者、インターネット上の極端に国粋的な若者、ブラジル人やタイ人といった外国人労働者、彼らのコミュニティと地元民との軋轢。
そのすべてが混在した剥きだしの社会を、上映時間3時間という壮大なエンターテイメントとしてまとめあげている。とりわけ出口のない移民問題をこれほどおもしろく、リアルに描ける監督は他にいないだろう。
(……どーれもーみんなきーれいーだねー……)
移出民、移入民をあわせた移民問題というのは、グローバル化した世界において、すべての国が直面している課題である。植民地政策をとってきたヨーロッパの国々も戦後、おもに北アフリカをふくむイスラム圏からの移民が増え、排斥と暴動、そして開かれた対話をいくどとなく繰り返し、いまなお努力している。
それにくらべ日本は、先進国でもっとも移民政策が遅れている国であることは言を俟たない。現在、日本における外国人登録者数は約200万人、そのうちいわゆる外国人労働者は100万人だ。
要約して書くと、政府の(そしてみなが暗黙に了解している)方針はこうだ。正規のルートでは、単純労働者の流入はおさえて、知的労働者の入国だけを望んでいる。よって不法労働者に対してはかなり厳格な基準で取り締まっている。
とはいえ一部の製造業や農業において、もはや低賃金の単純労働者なしでは経済が回らない構造があるのはあきらかなので、別のルート(外国人研修制度や、90年の入管法の改正による、日系3世とその家族の定住をうながす措置など)で調整を進めている……といった具合だ。
(……いっしょーけんめーになればいい……)
去年の下半期は、震災と原発事故後というタイミングもあり、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の議論がすごーく白熱してた。我々の社会は、変わらなければならないという焦りと、このまま変わらずにいたいという心性の狭間で、不安定に揺れていた(と記憶しているけど、あれ? だいぶ忘れちゃったなあ)。
移民の問題はどうだろう。文化摩擦や不就学の増加など、社会の分断が忍びよってるのに、もはや彼らなしに立ちゆかない現状があるのに、日本人の多くは見てみぬフリをしてるように思える。でも。こりゃTPPなんかより何倍も何倍も難しい問題だ。
長らく同質性をベースとしてきた社会のなかで、伝統や文化の維持をふくむローカリズムの流れと、職を求める人々が豊かな国の境界線を自由にめざす流れは両立するのだろうか? するとすれば、どんな形だろう。ぼくは彼らと、どんなサウダージが共有できるだろう。
(……そーさーぼくーらもー……)
BGMうるさいよ! ……まあ言いたかったことは、本作がそんな頭の痛い連立方程式に、フタをしないための強力な案内人となるんじゃないかな、ってことだ。けっこう笑えますし。うーん、いつもとくらべてまじめすぎたような……ではではチョークディー!
三品輝起(みしなてるおき)
79年生まれ、愛媛県出身。05年より西荻窪にて器と雑貨の店FALL (フォール)を経営。また経済誌、その他でライター業もしている。音楽活動では『PENGUIN CAFE ORCHESTRA -tribute-』(commmons × 333DISCS) などに参加。2011年7月、アルバム『LONG DAY』(Loule)を発表。