333DISCS PRESS

●チナボンボンブック

■野口法蔵「人間の頂」
「坐禅断食のすすめ」の著者野口氏の自叙伝。 カメラマンとしてマザーテレサを取材するためインドへ渡った野口氏。
当初はマザーテレサの施設に入っている人々を取材していたのですが、その施設に入れなかった人々が路上で死んでいくさまを目の当たりにして、彼のなかにひとつの疑問が。というのも彼らはとてもおだやかな顔をして死んでいくのだそうです。よい写真を撮るためにはこの謎をとかねば!と思った彼はなんと、インドのカースト制度のなかでも最下層のスードラと言われる人々とともに暮らし始めました。そしてそのうちにそれが、彼らの輪廻転生という死生観に由来しているということをつかみ、チベット仏教のお寺の門を叩くことに。しかも最終的には、チベットのなかでも最も厳しい修行をしているというお寺に入門するのです!

チベットのことわざに「体の問題を解決するときには心を動かし、心の問題を解決するときには体を動かせ」というものがあるそうです。想像を絶する厳しい環境に身を置き修行することによってつちかった彼の生き方の知恵には、とても説得力がありました。

 

■中沢新一「イコノソフィア」
イコン(聖画)というと現代の日本で普通に生活する私たちにとっては、あまり縁がないように思われます。が、聖書に描かれている聖人たちや天使、マンダラに描かれている世界などは、そもそもどういう意味や意図があって、伝えられてきたものなのでしょうか。 これをひもとくことによって中沢氏は、現代社会から消えてしまいつつある大切な思想を、ふたたび新しいかたちで現代によみがえらせようとしています。
この本を読むと、昔の人々の世界にも、羽根があって空を飛び回る裸の赤ちゃんのような天使は、実際には存在しなかったのだと改めて思わされます。当たり前のことのようですが(笑)。マンダラに描かれた世界にしても、今と同じく昔でも象徴的なものであったはずです。が、そういう目に見えない世界をフィーチャーすることによって伝えたい何かがあったのです。 科学が発達して、今は誰もたとえば天使が実在するなんて思う人はいなくなりました。ですが、かといってその天使が象徴していた思想までも、一緒に消えてしまっていいのでしょうか。そんなデリケートな問題提起ですが、彼独特のまるで詩のような語り口が大変に美しいので、なにかとてもうれしくなるというか、砂漠のような現実にも、実はわくわくするような人を元気にさせるような夢が潜んでいたのだなぁと思わされるのでした!

 

チナボン
バンドsugar plantのヴォーカル&ベース、正山千夏のソロユニット。2005年伊藤ゴロー氏のプロデュースで「in the garden」(333DISCS)をリリース。1994年詩集「忘却セッケン」で第10回早稲田文学新人賞受賞。http://blog.livedoor.jp/cinnabom/